このページでは、セミナーの講義テキスト(教科書)に沿って、その内容を詳しく紹介します。
単に、セミナーの講義内容の紹介にとどまらず、講義中に寄せられた質疑応答の中で興味深かったものを選んで、「参加者の質問」と「高橋先生・野口先生の返答」として紹介しました。さらに、随時、参加者の感想をで紹介します。はそれに対する高橋先生・野口先生のコメントです。
先生方の返答やコメントに、実際の講義では聞けない話も出てきます。
セミナーを受講中の方、終了した方にも新しい発見があると思います。
では、始めましょう。
講義テキストは、基本コースと上級コースの2冊があり、それぞれLecture 1〜6に章立てされています(治療技法コースには教科書はありません)。まず、全体の目次を下記に示します。
基本コーステキスト
Lecture 1 見立ての基本4型を学ぶ
Lecture 2 見立ての実際
Lecture 3 成人期の心理発達と葛藤
Lecture 4 思春期の心理発達と葛藤
Lecture 5 軽度知的能力障害と児童虐待との関係
Lecture 6 被虐待者=「異邦人」
上級コーステキスト
Lecture 1 定型心理発達 学童期と成人学童期
Lecture 2 統合失調症/統合失調症型(人格)障害/躁うつ病
Lecture 3 自閉症スペクトラム障害(ASD)
Lecture 4 認知症と高次脳機能障害
Lecture 5 パーソナリティ障害を見立て直す
Lecture 6 「共依存」「AC」「バーンアウト症候群」を見立て直す
これから各コースの目次に沿って内容を勉強していきましょう。
基本コース・Lecture 1 見立ての基本4型を学ぶ
セミナー最初のレクチャーです。
ここではセミナー全体の骨格である<見立て8型メソッド>を学びます。
<見立て8型メソッド>について、詳しくは本サイト内の「見立ての作り方 <見立て8型メソッド>」にまとめてありますので、そこを参照してください。
見立てとは何か? → それはクライアントの悩み・不適応の本質を分類するものです。
それを分類する基準は何か? → それはABCの3軸:Attachment, Brain dysfunction, life Cycleです。
その妥当性は? → カウンセリング・ケースワーク・相談の現場でとても役立ちます。
<見立て8型メソッド>がどんなものか、感じがつかめたら、次は8つの見立てを「基本4型」「上級4型」の4つずつに分けて、それぞれ基本コース、上級コースで詳しく学んでいきます。分け方は以下の通りですが、現場で最も役に立つであろう順番、理解を進めるのに必要な順番で分けてあります。
・基本4型:②思春期、③成人期、④「軽度」知的能力障害、⑤被虐待者=「異邦人」
・上級4型:①学童期、⑥自閉症スペクトラム障害 ⑦統合失調症 ⑧認知症・高次脳機能障害
統合失調症や認知症について学んだことのある専門家であれば、基本4型を知るだけで、現場の90%以上のクライアントの見立てができます。上級4型を勉強すれば、98%が理解可能です。
以下にLecture 1を受けた受講者の感想を紹介します。
病院勤務のため、診断名で判断してしまい、見立てをするということをしてこなかったので、考え方が大きく変わりました。大変勉強になりました。<30代・精神科病院PSW>
そうですね。単に「うつ病」と理解するのではなく、「見立ては成人期、診断はうつ病」とすると、病気の周辺のこととか、その人の人生のこととか、いろいろなことが見えてきますね。
見立ての基本4型を症例をあげながら、詳しく学ぶことができ、良かったと思います。<50代・看護師>
見立ての考え方を心理発達の過程、原理をおさえたうえで、解説していただき、原則と病理を合わせて理解することができました。さらに事例での解説があり、具体的な理解になったと思います。<40代・看護師>
データや体験に基づく理論が大変わかりやすかった。現場で実践できる内容だと思った。基礎力の低いデコボコ(の質問)に対しても、丁寧に対応してくださり、よかったと感じています。質問への回答が、質問者の意図を汲み取りながらだったので、周囲もわかりやすかったです。<50代・児童養護施設・支援員>
基本コース・Lecture 2 見立ての実際
ここでは、実際にクライアントの話に耳を傾けて見立てを作って行く手順を学びます。
「傾聴の技法」がメイン・テーマですが、面接の構造化、見立て「基本4型」の守備範囲などがサブ・テーマです。
Lecture 2 の内容は本サイトでは「カウンセリングの進め方 <傾聴の技法>」にまとめてあります。
カウンセリングは深いと思いました。傾聴すること、カウンセラーが口をはさまないことが大事と、よく分かりました。<40代・子ども家庭支援センター職員>
昨年に続き2年目受講ですが、自分の三流カウンセラーぶりに都度深く思い至らせてもらえる貴重な機会、かけがえのない時間です。<50代・個人開業カウンセラー>
自分が三流(=「ダメな」)カウンセラーと思えたら、それはカウンセラーとして大きく成長している証拠です。傾聴の難しさに気づかれたのですね。だったらもう一流です(笑)。頑張ってください。
受容・共感・傾聴と一口に言っても、正しい見立てなくしてカウンセリングは成立しないと学び、改めて傾聴のむずかしさにぼうぜんとしています。頑張って今後も学び続け、正しい見立てが出来るようになりたいと思います。<50代・心理カウンセラー・介護職>
今まで学んだカウンセリングは、クライエントの話をどう傾聴するのかという内容だけでしたが、ここは見立ての講義を聴けたことが新鮮で、かつ有意義でした。<40代・保健師>
見立てのない傾聴は、ただ「言葉」を聞いているだけになってしまいまます。「心」の深いレベルを聴くことはできません。
基本コース・Lecture 3 成人期の心理発達と葛藤
セミナーの骨格である<見立て8型メソッド>と、
見立てを作るための<傾聴の技法>を学んだ後で、
これからは実際に1つ1つの見立てを詳しく勉強していきます。
まず最初は、定型心理発達の成人期と、それに関連する精神疾患の理解を深めます。
定型心理発達とは、「普通の」、「愛着のある」母子相互関係を基盤にした心理発達で、
・乳幼児期→学童期→思春期→成人期
と進む、各年齢相応の心理発達です。90%くらいの人が通る道です。おそらくこのセミナーに参加している方のほとんどはここに属します。自分自身の見立てです。
セミナーでは、成人期をさらに3つに区分して、
・成人I 期、成人II 期、成人III 期
とします。
成人期は激しく揺れ動く思春期を越えて達成される安定期ですが、成人I期はまだその入り口、「大人になり立て」の時期で、原家族から引き継いだ問題が一部未解決のまま残っています。真の安定期である成人II 期に到達するにはこれらを解決しなければなりません。成人期の問題はほとんどがこの成人I 期で発生します。
それらは、
・うつ病(大うつ病・中等度以上のうつ病エピソード)、
・パニック障害、
・アルコール依存症などで、
これらの詳しい心理的な発生メカニズムを成人期心性との関連で学びます。
また、この時期のカウンセリングは、受動中立性に立脚した「傾聴の技法」が中心になります。なぜ傾聴によって、成人期葛藤が解決して症状が軽快していくのか、その仕組みを成人期の葛藤構造から理解します。
どうして講義の最初に成人期を学ぶかというと、そこに治療者、カウンセラー、支援者がいるからです。自分がいる社会的な位置、他人との心理的配置を知らないと、クライアントときちんと向かい合うことができません。
現場において対象者となる方の見立てだけでなく、自分自身を見立てる大切さを学びました。ありがとうございました。<30代・法務省・社会復帰調整官>
まずは自分の立ち位置を知ること、自分自身の困難さ、特徴を知った上で仕事することが必要と学んだ。相談者の見立てをするにも、相談を受けるにも、そのことが基本・土台であると思った。<40代・精神保健福祉士>
今までは相談を受ける時に、おそらく何の疑問もなく、「クライアントさんも自分と同じ人」と考えていただろうと思います。でも、自分の見立て=成人期が分かると、「クライアントさんは?」と、自然と相手の見立てを考えるようになります。これが大切です。
参加者の質問①
「認知行動療法」が成人期にしか効かないのはなぜですか?高橋先生の講義で、「認知行動療法は成人期にしか効かない」というお話がありました。理由を教えてください。 |
高橋先生の返答①
基本コース・Lecture 4 思春期の心理発達と葛藤
思春期は子の反抗期です。子は親に反抗し、自分を主張して親から精神的に自立していきます。正常な心理発達の一段階です。普通は高校生くらいを中心に数年続きます。親と口を利かない、文句が多くなる、帰宅時間を親に言わない、など。その程度の反抗で、大きなトラブルになることはなく通過していきます。正常な思春期です。
一方、全体から見れば少数ですが、親の生き方に大きな問題や歪みがある場合は、子の反抗期は激しくなり、その心的葛藤は、親子間の対立(緊張・暴言・暴力=行動化)となって表れます。子が発する問題は、親に自らの生き方を内省させ、修正を迫ります。精神的混乱は子の側により強く生じ、子は不登校・引きこもりや摂食障害、薬物乱用、非行などの中に怒りを表現します。
こういった問題化した思春期では、子が自分から専門機関を訪れることは希で、親のカウンセリングや助言が中心になります。カウンセリングでは親を正しく見立て、親子間葛藤が解決される道筋を作っていきます。思春期問題のカウンセリングは受動中立性に立脚した傾聴技法だけでは不十分で、変法が必要になります。
思春期について、“思春期問題はない”ということが目からウロコでした。ちゃんとした反抗期なのかどうか、という点を見極めていきたいと思います。<30代・PSW>
思春期(反抗期)は本人にとっては、親を否定したり、自分を否定したり、また逆に、自分こそ唯一無二の価値ある存在だと思ったりと、大きく自我が揺れる時期です。しかし、それが問題化することはあまりありません。多くの思春期、おそらく80%〜90%、は問題を起こすことなく、心を成長させて、成人期に到ります。このことが理解できて初めて、「では、目の前のクライアントが抱えている“問題化した思春期”の原因は何か?」と、見立てが進んでいくのです。
参加者の質問
思春期のうつ状態?いわゆる“現代型うつ”は、自分を責めすぎる成人期のうつとは違い、思春期心性からの反発だと説明を聞き、とても腑に落ちました。私の勤める事業所にもそういった若手職員がいて、先日うつ病の診断書を持ってきました。思春期を成就できなかったのは気の毒だなと思うものの、私も彼の親じゃないし…どう対応したものでしょうか? |
高橋先生の返答
現代型うつ病? 新型うつ病?まず診断名からきちんと区別しておきましょう。若者のうつは昔からあるもので、現代型うつ病とか新型うつ病ではなく、「葛藤反応性うつ病」「神経症性うつ病」「軽症うつ病」と言われてきたものです。これは精神医学では「他者への配慮のない未熟な若者に多い」と言われていて、その心理的な内容は思春期=反抗期に相当します。反抗期ですので、自分がうつ病になって仕事に行けないのを誰か他人(親、会社の上司)のせいにします。自責感が薄いのでうつ症状は重症化せず、仕事のない土日は自分の時間を楽しんでいることが多いです。 |
「問題化した思春期」、親の見立ては?
「問題化した思春期」で親が相談に来ました。子どもは中学3年生で正常(=見立て8型の「思春期」、つまり発達障害などがない)な場合、親の「見立て」にはどんな可能性があるでしょうか?3つあげてください。 → 解答はこちら
基本コース・Lecture 5 「軽度」知的能力障害と児童虐待との関係
ここでは、「軽度」知的能力障害と境界知能について学びます。
一般の人が知的能力障害と理解しているのは、図の中等度・重度・最重度の知的能力障害です。一方、ここで学ぶ「軽度」知的能力障害と境界知能については(かなりの専門家でも)見立て・診断をつけられず、見逃していることが多いです。
しかし、この領域の知的能力障害の理解は臨床的に(現場で)とても大切です。なぜなら、この領域の障害が 1. 困難事例(診断やケースワークの混乱、支援の行き詰まり、支援者とのトラブル、福祉行政でのクレーム)や、 2. 社会的逸脱行為(不適応や孤立、軽犯罪)、3.児童虐待問題に関係することが多く、4. 被虐待者「異邦人」の理解にも重要だからです。
「軽度」知的能力障害と境界知能の臨床的な特徴は、
A. 読み書き算盤や社会的な手続き(概念的領域の知能と実用的領域の知能)は正常か、なんとか適応できるレベルですが、
B. 他人の気持ちを推測したり、社会的な常識を理解することができずに対人関係が不安定になること(社会的領域の知能)です。
B.の結果としてその時々にさまざまな症状が見られ、正確な見立てができないまま、さまざまな精神科診断名がつけられています。境界性人格障害、双極性I障害II型、軽症うつ病、アルコール依存症、パニック障害……などです。
見立ては「軽度」知的能力障害、現在の診断名は○○と、分けて考えられるようになると、問題の本質が見えてきます。
MRの概念(特に境界知能)を知ったことで、見立てがクリアになりました。MRを知らなければ、クライエントさんに翻弄されていたと思います…。<30代・心理職>
※注:MRはこのセミナーでは「軽度」知的能力障害〜境界知能のことを指します。MR= ICD-10の診断名、Mental Retardation.
クレーマーの特徴がMRの特徴とぴったり一致することに驚きました。MRの特徴、対処方法を理解することで、学ぶ前より人間関係のトラブルが減ってきました。その人に合った接し方をすることが、こんなに大切なんだと実感した1年でした。<40代・行政職>
ここで勉強すると、クレーマー対応がとても上手になります(笑)。
心理の教育では、来談者がMRであることは除外されているように見えます。しかしながら、行政の、子育て支援の現場や、地域密着の精神科クリニックでは、どう考えても軽度MRの方がたくさん来られます。新たな見立ての方法、対応についての考え方をご指導いただけて、勇気づけられました。<40代・臨床心理士・精神保健福祉士>
心理教育の分野では「脳機能障害」の理解はあまりないようです。MRの人はその時々にさまざまな症状を出しますので、いろんな診断名がつきます。ここでも「見立て」をきちんとつけると、ケースワークの方針もよりすっきりと立てられるのではないでしょうか。
「軽度知的能力障害」という新しい見立ての視点を教えていただきました。クライアントさんだけでなく、その母親が持つ障害(MR)にまで目が向けられるようになって、カウンセリングが1ステップ上がったように思います。<50代・EAPカウンセラー>
HCMでのMRの定義は何を基準にしているか?
MRはmental retardation (精神遅滞:ICD-10での用語)の略ですが、セミナーでは広く「軽度」知的能力障害〜境界知能の領域と、さらにADHDやLDの一部を含む「見立て」として使っています。
知的能力障害の定義は以前はIQ<70とされていましたが、DSM-5ではこれが外れ、社会への適応機能の評価で診断するようになりました。おそらくセミナーで使っている定義により近づいたものと思います。
そこで問題です。
セミナーでのMRの見立て、すなわち<見立て8型>の「軽度」知的能力障害は、ICD-10やDSM-5のものより広い領域を含むものになっていますが、どんな基準を採用した結果こうなったのでしょうか?
→ 解答はこちら
基本コース・Lecture 6 被虐待者=「異邦人」
非定型心理発達とは、母親に発達障害や精神障害があっために「普通の」母子相互関係=「愛着関係」を持てないままに育った人の心理発達です。
セミナーでは「異邦人」と呼んでいます。
母親に発達障害や精神障害があると、子は多かれ少なかれ虐待(ネグレクトは必発で、状況により身体的、心理的、性的虐待が加わることもあります)を受けてしまうことになります。したがって、非定型心理発達(=「異邦人」) は被虐待児の心理発達です。
「異邦人」(=被虐待者) は幼少期から生理的、心理的な欲求を十分に満たされないままに成長します。生理的欲求の充足が少ないと「存在」のリアリティーが希薄になり、心理的欲求の充足が不十分だと(社会的)「自我」を確立することができません。これらが原因となり、自分がこの社会の中で皆と一緒に生きているという感覚が持てず、一人だけ除外されているような「異邦人」のような孤立感を感じて生きています。
孤立と不安の中で、通常の幼児期→学童期→思春期という心理発達をたどることなく、思春期を経ずに成人期に到ります。困難の中で生き延び、身につけた厳しい体験の様式がどのような症状に出て、どう語られるかを講義で示します。
関連する精神疾患は、
・反応性愛着障害、脱抑制型対人交流障害
・反復性の非定型的うつ病(バーンアウト候群)
・解離性障害
・非定型的な摂食障害
・パニック障害
・不眠
などです。
虐待の痛みに耐え、情緒的な相互交流の体験に乏しいクライアントには、受動中立性を守る傾聴カウンセリングだけでは不十分で、カウンセラーが能動性を発揮して深い受容を作り出すことが必要です。
「異邦人」の勉強ができたこと(がよかったです)。学校で困難事例となっている児童は、ほぼほぼ異邦人で、生き方に困難を感じていることがわかった。<40代・養護教諭>
反応性愛着障害や脱抑制型対人交流障害を持った子どもは集団行動がとれないので発達障害と誤診されたり、人を避けているので、「友だちと一緒に遊べない変な子」とされてしまうことがあります。
異邦人理論を知ったことで、自己理解が進みました。母がMRだったと気づいたのです。今、母は高齢で認知症ですが、生きているうちにこの事実に気づけてよかったです。<50代・精神保健福祉士>
※注:MRはこのセミナーでは「軽度」知的能力障害〜境界知能のことを指します。
異邦人の理解は他で学べないので、その心の状態にとても関心があった。<60代・主婦・専門資格あり>
これまで10年にわたって心理学とともに多くのカウンセリング理論を学んできましたが、カウンセリングの現場において長い間ずっと疑問を感じていたことが、このセミナーによって解決されました。それは私の視点を大きく変える学びでした。「MRと異邦人」のことを学ばなくては、カウンセリングはできないということでした。大変すばらしい学びをありがとうございました。<60代・カウンセラー>
参加者の質問①
「軽度」知的能力障害と被虐待者の重複「見立て」は?知的能力に問題がありそうなクライアントですが、お話を聞いていると、幼少期に親からの虐待を受けてきたエピソードが出てきました。被虐待者としてカウンセリングしていけば、回復するのでしょうか? |
高橋先生の返答
<見立て8型メソッド>には重複はありません(1) まず、見立ての作り方の形式面から解説すると、「見立ての作り方」のフローチャートで示したように、<見立て8型メソッド>は、Brain dysfunction → Attachment → life Cycle の順で評価をしていきます。知的能力障害の場合、Brain dysfunction の評価の段階で、それが確定できれば→そのまま見立てができ上がります。重複の見立てはありません。 |
参加者の質問②
同じ親から虐待を受けた同胞の症状の違いは?虐待を受けてきて、能力的には問題がないものの、社会にうまく適応できず、就労経験のほとんどない方の支援をしています。「同じ親に育てられたけど、姉は仕事して家庭も持ってちゃんとできている。姉には『あなたの努力が足りない。甘えてる』と厳しく責められるので、関係は良くないです」とおっしゃっていますが、こうした同胞間の差はどうして生じるのでしょうか? |
高橋先生の返答
子が原家族内でどんな役割を果たしてきたか同じ親に育てられ、同じ虐待を受けた同胞の場合、被虐待の心の傷は共通ですが、性別や原家族内でどんな役割を果たしていたかによって、成人してからの苦しみに差が出てきます。例えば、姉妹が母親から同じような虐待を受けてきた場合、姉は下の妹を守ろうとして、同じ厳しい環境を生き抜くために妹を叱咤激励します。それが度を過ぎると弱い妹に対して、批判的になることもあります。これは一例ですが、さまざまな形が考えられるのです。 |
参加者の質問③
「異邦人」カウンセラーの立ち位置は?私自身も「異邦人」です。「異邦人」クライアントのお話にとても共感できるのですが、聴いていて苦しくなるときもあります。「異邦人」カウンセラーはどのようなことを心がけたらよいか、アドバイスをお願いします。 |
高橋先生の返答
「異邦人」カウンセラーは大きく成長します成人期に位置しているカウンセラーは、学童期・思春期のクライアントのカウンセリングは比較的容易にすることができます。それはカウンセラーがクライアントより広い心理的視野も持てているからです。一方、思春期のカウンセラーがいたとして、その人は成人期のクライアントのカウンセリングはできないでしょう。成人期の心性をまだ理解できないからです。 |
反応性愛着障害の子が大人になると?
虐待を受けた子は小さい頃に、その心の傷が「反応性愛着障害」や「脱抑制型対人交流障害」という特殊な人間関係の持ち方として現れます。また、ボウルビィの愛着理論によれば、幼少期の母子関係の歪みはその後の人生に長く大きな影響を与え続けるとされます。
そこで問題です。
「反応性愛着障害」や「脱抑制型対人交流障害」として現れた子どもの心の傷は、大人になってからはどんな形になって影響を与え続けるのでしょうか?
→ 解答はこちら
上級コース・Lecture 1 学童期と「成人学童期」
定型心理発達は①幼児期→②学童期→③思春期→④成人期と進みます。
・基本コースで③思春期と④成人期を学びました。
・上級コースでは②学童期を学びます。
学童期は、親や先生が教える規範(生き方のルール)をよく理解して、それに従えるという発達段階です。この段階での子の悩み(葛藤)は精神症状ではなく、身体化症状(腹痛・抜毛・チック)や行動化として表れることはよく知られています。
一方、年齢は成人に達していても心理的には学童期にとどまっている人がいます。つまり、思春期の心理発達課題をやり残している大人です。このセミナーでは「成人学童期」と名づけています。
「成人学童期」の理解はなかなか難しいです。講義では理論的にそれを説いて、成人期との比較、葛藤様式の特徴なども含めて勉強していきます。
ここでは「成人学童期」のイメージを持てるように、以下、「成人学童期」に対するちょっと意地悪な「悪口」を紹介してみます。
「成人学童期」は、「文学少女のままのおばさん」とか、「ひどいマザコンのおじさん」とか、「妻が4才の息子を可愛がっていると嫉妬して不満そうにする夫」とか、「小学校のPTA役員をとっても自慢げにやっているお母さん」とか、「小学生に本気で腹を立てている先生」とか……です。
少しイメージできたでしょうか。
講義では、
・本来の学童期(子ども)の不適応問題を概観するとともに、
・「成人学童期」について詳しく学びます。
・さらに、親が「成人学童期」の場合、子にどんな心の問題が生じるかを、拒食症、不登校問題などを取り上げて検討します。
クライアント(の見立てに必要なこと)の大半は初級コース(基本コース)で学べるとのことで、上級を受けるか迷いましたが、学童期はおさえたいところだったので受講しました。教育現場で「成人学童期」はよく見かけるので、受講して良かったと思います。<40代・養護教諭>
大人なのに学童期という不思議さ。まず、年齢的には大人なのに「学童期」の心性を持っている人(=「成人学童期」)がいることに驚いた。そして、その言葉の印象から「子どもっぽい人」と単純に思ってしまいがちだが、どうやらそうでもないようだ。ますます混乱する。(中略)……人の心理状態は年齢ではなく、心理発達段階で決まっていく。その人が倫理規範をどのように持っているか、人間関係をどう理解しているかを見極めることが見立てには重要だということを再認識させられた。<40代・精神保健福祉士>
「成人学童期」の理解はこのセミナー内で難易度トップだと思います。もちろん自閉症スペクトラム障害や統合失調症の心理も理解は難しいのですが、これらは受講者の日常とはまったく違った心理ですので、勉強すれば「なるほど、そうなんだ」と納得します。一方、「成人学童期」の心理は過去に受講者自身がその段階にいた身近な心理なので、どうしても自分の気持ちをクライアントに「投影」したり「転移」してしまいます。それが「成人学童期」の理解の困難さです。投影や転移を離れて、客観的にクライアントの心理を理解するには、思春期は学童期に近すぎて無理でしょう。また成人I期もまだ難しそうで、カウンセラーが成人II期の心の視野を獲得して初めて、その理解が安定します。「成人学童期」の理解はカウンセラー・支援者の立っている位置を揺らしますね(笑)。
上級コース・Lecture 2 統合失調症 / 統合失調症型障害
統合失調症は慢性・遺伝性の脳疾患で、前駆期、急性期、寛解期、慢性期と特徴的な経過をたどり、経過中にまったく異なる2つの症状、
< 陽性症状=急性期の幻覚妄想> と、
< 陰性症状=慢性期の生活障害> が現れます。
2つ症状とその時期が混同されると疾病の本質を見逃します。また、各症状に対する治療法と対応できる専門機関も異なります。
脳疾患としての精神医学的理解、疾病による喪失体験という心理的理解、そして社会適応を維持し生活障害を支えていくための支援の方法を概説します。
統合失調症型障害は統合失調症の類縁疾患です。おおざっぱに言えば、統合失調症の前駆期のような被害感、孤立感が(ごく軽度ですが)長く続いていると考えていいでしょう。
参加者の質問①
SPDとASDの違いは?統合失調症の講義、とてもよく分かりました。質問です。統合失調症の類縁疾患であるSPD(統合失調症型障害)と、ASD(自閉症スペクトラム障害)の違いについて教えて下さい。両方とも人とのコミュニケーションが乏しくて似ているように思うのですが、両者の違いを一言で言うとどうなりますか?教えて下さい。 |
高橋先生の回答①
被害感・孤立感が第一になっているか否かですすごくいい質問ですね。いいというのは「レベルの高い質問」だという意味ですが、精神科医の間でもこういうことに疑問を持って話し合えるのはかなりのレベルだと思いますよ(笑)。確かに、SPD(統合失調症型障害)もASD(自閉症スペクトラム障害)も、ともに人との交流が乏しく、周りに対して「我関せず」、マイペースを貫いている……ところは似ていると思います。一方、内面にはかなり違いがあります。簡単に言うと、SPDの人は他人、社会に対して常に緊張感があって「被害的」「孤立的」な感覚を持っています。一方、ASDの人は本当に周りの人間関係に無関心です。 |
(講義で提供された)事例と同じようなケースを担当しています。今までアスペルガーと思って対応していましたが、事例と比較して、SPDだったとは!。はっきりしました。他のケースも見直してみます。<30代・保健師>
※注:SPD=統合失調症型障害
参加者の感想②
恐い人ではなく、「怖がっている人」統合失調症前駆期に、妄想気分から幻覚妄想状態に突入するまでの症状の推移は、まさに「おどろおどろしい」。それまで自明だったはずの自己の存在や社会の仕組み、言葉が壊れ、世界がわからなくなり、大混乱する。想像すら難しいが、本人の中では異常な恐怖体験が起こっているのである。ケースワークやカウンセリングの中でそれに気づいたら、一刻も早く医療につなげなければならない。知覚自体は正常だが妄想的な意味づけをしてしまう「妄想知覚」の異常性は、MRが物事を短絡的に理解する「被害的な思い込み」や、被虐待者が相手の言動を被害的に受け取る「認知の歪み」とは、全く別次元の異常性なのであるが、表面的には一見似ているので、判別に迷うことがある。妄想的思考の内容が日常の延長上にある話なのか?恐怖感や緊張感から了解可能なのか?など鑑別して、判断するための軸を増やしていきたい。 |
高橋先生のフォロー②
発症の経過が分かる貴重な記録です今回、紹介した事例はとても貴重なものです。当初は前駆期の神経的な症状が中心であったため、おそらく違う見立て(成人期あるいは異邦人)でカウンセリングを始めたようです。そのために、詳しい逐語録が残っています。しかし、カウンセリングの途中から行間に被害妄想を思わせるものが漂い始めて、それが次第に幻覚妄想になっていく……まさに発症の瞬間を記録したものです。(高橋和巳) |
上級コース・Lecture 3 自閉症スペクトラム障害
自閉症スペクトラム障害は対人的相互関係・社会関係の質的な障害です。これは知的能力障害者の「幼い愛着関係と未熟な社会適応の様式」とは全く異なるものです。
しかし、自閉症スペクトラム障害は知的能力障害を伴うことが多く、その程度によって、適応の様式やその問題の現れ方は大きく相違します。このために、自閉症スペクトラム障害は理解が難しく、また見立ての誤り(誤診)を招くこともあります。
一方、「知的問題がない」自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群=高機能自閉症)の場合には、知的能力障害による不適応症状の部分が除外されますので、「対人コミュニケーション領域での持続的な欠陥」(DSM-5)が特徴的に表れます。こういった事例を勉強すると、自閉症スペクトラム障害が見えるようになります。
講義では自閉症スペクトラムのどのよな障害が社会不適応として現れるのかを詳しく取り上げながら、他の発達障害との鑑別の要点を示します。
参加者の質問
大人の発達障害、ASD? MR?EAPで働く人のメンタル相談に従事しています。「何度注意しても何がいけないのかピンときていない様子で、全く悪びれない部下に困っている。空気を読めないのでお客様を怒らせてしまう。自分のミスをごまかすために、すぐにばれる嘘をつくので、周りがイライラしている」との相談がありましたが、いわゆる“大人の発達障害”でしょうか? |
※注:ASD=自閉症スペクトラム障害
※注:MR =「軽度」知的能力障害〜境界知能 (Mental Retardation)
高橋先生の返答
大人の発達障害は、ASDとそれ以外の発達障害の鑑別が必要です質問の内容を検討すると、以下の4つの症状が語られています。 ①〜③は、ASDとそれ以外の発達障害(MR, ADHD, LD)に共通の症状です。 |
※注:ADHD = 注意欠陥多動性障害
※注:LD = 学習障害
自閉症スペクトラム障害、母親はどう感じている?
「自閉症スペクトラム障害」の心理は、日常の中の「普通の人の」実感から理解しようとするとなかなか難しい心理です。まず「違う」ということを知り、自分の日常の「当たり前の」心理を(安易に)投影しないように気をつけましょう。それができたら、ついで、どう違うのかを理解していきましょう。
そこで問題です。
中2の次男の問題で母親が相談に来ました。成績は中の上で、友だちはあまり多くなく、最近、少し不登校気味です。30分ほど母親の話をうかがっていると、どうも次男は自閉症スペクトラム障害(ASD)のように思われてきました。これを確かめるために本人の日常生活の様子を2、3聞いてみようと思います。
さて、どんなことを質問したらいいでしょうか?
3つあげてください。
→ 解答はこちら
上級コース・Lecture 4 認知症と高次脳機能障害
認知症・高次脳機能障害は脳の器質性疾患ですが、これらは発症するまでに一度は正常な心理発達を遂げ、成人として社会適応ができていた期間があるため、発病による能力低下が大きな「喪失体験」となります。
発症は家族にも大きな心理的混乱と喪失をもたらし、家族の心理発達段階(見立て8型の組み合わせ)によっては支援・介護の中でさまざまな問題を生じさせます。家族のうつ病、高齢者虐待や障害者虐待などです。これらの関係を精神医学的、心理学的な視点から検討します。
高次脳機能障害の家族に対するカウンセリングについて(勉強できてよかった)。正しい知識と理解を得られた後の喪失感の傾聴について(理解できました。)<50代・個人開業カウンセラー>
参加者の質問
老年期うつ病?高齢者の相談事業所でソーシャルワーカーをしています。「元々アクティブな母だったのに引きこもりがちになり、『生きていてもしょうがない』などと言うようになったので心配」と、娘さんが相談にみえました。一応身の回りのことは自分でできているようです。老年期うつなのか、認知症の初期症状なのか、判断に迷います。どのあたりをポイントに質問したらよいでしょうか? |
高橋先生の返答
「老年期のうつ」にはさまざまのものが混じっています。<見立て8型メソッド>に従って見立てを作って行くと、 |
認知症と「軽度」知的能力障害の鑑別はどうしたらいいか?
2年前に夫を亡くして一人暮らしをしている73才の女性が近隣に迷惑をかけていると相談が寄せられました。ゴミの出しの曜日がおかしかったので注意したら逆ギレされた、隣の家をのぞき込んでいた。。。などです。家の中は荒れたままで生活そのものが破綻しかけているようでした。
女性はその後、認知症の診断を受けて家事支援のために介護ヘルパーさんが入るようになりました。しかし、ヘルパーさんにも暴言が続き、困っています。近くに住んでいる長男が時々は顔を出してくれますが、その長男のことも「息子に蹴られた、老人虐待だ!」と文句を言っています。
支援のPSWは「どうも普通の認知症のおばあちゃんとは印象が違う。こんなに一方的で自己主張の強い人はめずらしい」と感じていました。PSWはもしかしてもともとのMR(「軽度」知的能力障害)があるのでは、と考えました。
ここで問題です。
もともとMRがあった人が歳を取って認知症を発症した場合と、もともとは正常であった人が認知症になった場合とを鑑別するためには、どんなことを確かめたらいいでしょうか?
聞き取れるのは、本人(73才のおばあちゃん)からだけです。
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上級コース・Lecture 5 パーソナリティ障害を見立て直す
人格障害概念は、
(1) 統合失調症の不全型、
(2) ある特定の精神疾患とは関連づけられないが脳の器質的疾患が疑われているもの、
(3) ある性格傾向が強調されたもの、
などが寄せ集められたものになっています(DSM-5 では10 類型)。
これらを個々に見てみると、現場で問題になる例はごく限られてくることがわかります。また診断を精査すると、分析的な解釈に偏り、知的能力の評価が不十分で見立て直しが必要な事例も少なくありません。講義で人格障害10 類型を見立て直します。
常々、<見立て8型メソッド>の中に「人格障害」が入っていないことに疑問があった。特に境界性人格障害は、現代のモデル臨床像、と言われる位に症例も多く、臨床現場で問題となっているのに。しかし、Lectureを受けてその疑問が解けて、すーっと人格障害概念が整理されていった。(中略)……そうか、人格障害という診断に惑わされず、8型をしっかりと理解すればいいんだ。そう確信できた。これでやっと安心して、8型で見立てに取り組める。<40代・精神保健福祉士>
人格障害の概念はいくつかの定義が重なっており、互いに矛盾するものも含まれています。レクチャーで人格障害概念の歴史を勉強すれば、スッキリしますね。
(よかったことは)「成人学童期」という見立てを学べたこと。人格障害を改めて見立て直すことができたこと。<40代・保健師>
上級コース・Lecture 6 「共依存」「AC」「バーンアウト症候群」を見立て直す
「共依存」・「AC(アダルトチルドレン)」の概念は、嗜癖領域に限らず広く使われるようになっていますが、これらの事例を精査すると、異なる問題をないまぜにして表面的な特徴だけから見立てられていることが分かります。
実際は、成人I期や被虐待者「異邦人」の葛藤の一側面、あるいは境界知能の不適切な対人関係の表れであることが分かります。
また「バーンアウト症候群」もうつ病との異同が不明確なまま使われています。
見立て8型からこれらを見立て直します。
「共依存」や「AC」の抱えている問題は、当セミナーの見立てにしたがうと、成人I期から成人II期への発達課題であることが分かります。
また、「バーンアウト症候群」の多くは大人版の「反応性愛着障害」の表現で、当セミナーの見立てによれば被虐待者「異邦人」となります。
「成人学童期」という見方(見立て)を新たに知りました。理解は難しいですが。また「AC」「共依存」に対する考え方も修正できました。<50代・精神保健福祉士・相談支援員>
以上でカウンセリングセミナーの各講義の紹介、終わりです。
いかがですか、楽しんでいただけたでしょうか。