カウンセリングの進め方 <傾聴の技法>

このページでは、カウンセリングの進め方を順に説明しながら、「傾聴の技法」を学びます。
傾聴は、①カウンセリング、②ケースワーク、③その他の支援で共通に大切な技法です。下に示す順番で学んでいきましょう。

I. カウンセリングの3つの進行段階

カウンセリングは次のように3つの段階を追って進んでいきます。

1. 不安抑うつ期
2. 崩壊期
3. 再生期

 

 

  • 「安定した頑張り期」では、クライアントは適度な頑張りを続けながら人生を歩んでいます。大きな問題はありません。しかし、心理発達のある段階に達した時や、あるいは大きなライフ・イベントに直面して心の問題・不適応が発生します。
    その時に、カウンセリングや相談が始まります。
  • 段階:「見立て」を作る
    カウンセリング方針を決定するために、まず「見立て」を作ります。見立てとはクライアントの悩み・不適応の本質を分類することです。(当セミナーでは8つに分類します=<見立て8型メソッド> )
    クライアントの心の状態を知り、正確な見立てを作るためには、傾聴が必要です。
  • 段階:不安抑うつ期
    それまでの生き方がうまくいかなくなって、苦しんでいる段階です。クライアントは自分を責めたり、不安になったり、落ち込んだり、あるいは、もう一度頑張ろうとしたりして、大きく揺れます。カウンセラーに揺れを語ることによって、クライアントは自分の心の中にある生き方の「矛盾」に気づき始めます。矛盾は深い感情を伴った「葛藤」として表現され、自覚されます。
    この段階でのカウンセラーの役割は、「傾聴」によってこの心の迷い・揺れを支えることです。
  • 段階:崩壊期
    古い生き方に修正を迫られる段階です。クライアントはそれまで信じていた自分の生き方に疑問を持つようになって、それを修正しようともがきます。心の葛藤はピークに達し、不安→恐怖→悲しみへと深い感情が流れ、感情の対立がやがて崩壊します。最後の最後に、クライアントは安堵の中に落ち着きます。
    カウンセラーはこの心の最も苦しい時期を、傾聴して静かに見守ります
  • 段階:再生期
    新しい生き方が始まる段階です。静かに落ち着いた心は、それまで我慢していた自分、禁止していた自分、隠されていた自分をそのままに素直に受け入れます。すると、「自己」は大きく拡大して、人生が軽やかに、より楽しくなります。
    カウンセラーは、傾聴の技法を続けて、喜びを分かち合います


3つの段階を通じて、カウンセリングの最も大切な技法は「傾聴の技法」です。傾聴が大切なのはカウンセリングだけではありません。
ケースワーク、相談業務、支援事業をスムーズに進めるため、すべてに共通する最重要の技法です。
以下、「傾聴の技法」について解説します。

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II. 傾聴の技法

傾聴の技法とは、「ただ、黙って、相手の話に耳を傾ける」技法です。簡単そうにみえますが、カウンセリングの中でもっとも難易度の高い技法です。  「これが本当にできていれば、カウンセラーとして一流です」(高橋先生)。「ただ黙って聴くことをもう少し詳しく定義すると、次のようになります。

傾聴の技法: クライアントが話し始めたら、

a. 絶対に、口を挟まない、
b. 絶対に、質問をしない、
c. 絶対に、助言をしないで、
・・・話し終わるまで、ただ静かに聴く。

また別の言い方をすれば、傾聴とは以下のことをしないことです。
①支持・承認の口を挟まない   :
・  相手の言っている内容に同意して自分もそう思うと伝えない
②復唱・繰り返し・要約をしない :
・  相手の話のポイントをつかまえて返さない
③明確化しない         :
・  クライアントが気づいていないことをカウンセラーが言語化しない
④たとえ何か聴き取れないことがあっても、質問しない

(以上、基本コース講義テキスト改定第3版、p38から引用)

セミナーでは上記の内容を勉強した後に、具体的な事例の紹介があります。摂食障害を抱えた女性がカウンセリングにやって来ました。そこでは、 ①カウンセラーがきちんと傾聴できている場合と、 ②口を挟んでしまって傾聴できなかった場合との、クライアントの反応の違いが示されます。
②口を挟んでしまった場合、クライアントは摂食障害の症状の訴えに終始してしまいます。一方、
①傾聴できている場合では、クライアントは摂食障害以外の症状や心の苦しみを語り、さらに自然と自分の育った原家族の問題に到ります。

セミナー後に寄せられた参加者の感想を以下に紹介します。

受講者の感想

「傾聴の“真の基本”技法とは?」と考えさせられた

よくあるカウンセラー養成講座やカウンセリングの入門書では、クライエントの発言に対して「沈黙」「質問」「復唱」「おうむ返し」「要約」「明確化」等の技法を用いることが「傾聴の基本」である、と言われている。私はこれらの技法に常々疑問を感じており、どこか腑に落ちず、違和感を抱いていた。すると、このセミナーでは「沈黙」する事以外をきっぱりと否定してくれた。沈黙以外は“話題の限定”であり“聴く”ことにはならない。カウンセラーがクライエントに対して、何か言葉を返した時点で、それはカウンセラーが選んで返したことになる、そう先生は仰った。クライエントが自らの心の内を自らの言葉で語る=「クライエントの主体性を尊重する」というカウンセリングの本質が、「ただ黙って聴く」ことに集約されるのだと、改めて実感させられた。この傾聴の“真の基本”を肝に銘じ、これからも目の前のクライエントに向き合っていきたい。(U・30才代・精神保健福祉士)

高橋先生のフォロー

黙って聞けるようになったら一流

カウンセリングを学び始めて日が浅い人はセミナーの講義を受けて、「今まで習ってきたこととは違う!」とショックを受けるようです。一方、上記の投稿者のようにベテランの方は「やっぱりそうか!」「言ってくれてとすっきりした」と感想を返してくれます。 確かに、私たち、治療者・カウンセラー・ケースワーカー・支援者はセッションの中で無意識のうちに、どこかで口を挟んでいます。私は長くカウンセラーのスーパーヴィジョンを行っていますが、そこで提出される逐語録を検討していくとそれがよく分かります。逐語録の中でカウンセラーが口を挟む箇所がほとんどなくなって、クライアントが自由に話しているのが読み取れるようになると、このカウンセラーは「かなり力がついてきたな」と思います。黙って聞くこと(傾聴)の大切さを体で理解できたカウンセラー・ケースワーカーは“一流”だと私は思います。  (高橋和巳)

セミナーではこの後、どうしてカウンセラーやケースワーカーが「黙って聴いていられなくて、つい口を挟んでしまうのか」について詳しい心理的な検討が行われます。その中からいくつかを取り上げると、次のようになります。

    • カウンセラー・ケースワーカーが自信を持てないので、ついクライアントに同意の気持ちを返してしまう。
    • クライアントの悩みの本質(=「見立て」)が分からず、カウンセラーが迷っているため、質問してしまう。
    • クライアントの言っている内容に「同意できない」気持ちや、反発があってつい口出しをしてしまう。
    • クライアントの役に立ちたいという気持ちが強く、「何か言ってあげたい」と思って、口を出してしまう。……などです。

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III.初回面接 傾聴ができたか否かで、その後が決まる

カウンセリングでも相談・ケースワークでも初回面接の時にきちんと傾聴ができたか否かでその後の進行が決まります。その理由は2つ。

    • 第一は、傾聴はカウンセラー(ケースワーカー・支援者)とクライアントの間の信頼関係を作ために大切な時間だからです。
      信頼関係はクライアントが自分のことを安心して語れるようになるために必須です。カウンセラー・支援者を信じることができなければ、クライアントは本音を語れません。カウンセリングや相談は進みません。
    • 第二は、傾聴はクライアントの「見立て」を作るためのに必要な時間です。見立てができなければ、カウンセリングもケースワークも始めることができません。
      見立てを作るために、静かにクライアントの話を聞きます。
      この人の悩みの本質は何だろうか、一番困っていることは何だろうか、きちんと自分の内面を語れる人だろうか、日常生活で一番問題になっていること、不適応を起こしていることは何だろうか、人に対する愛着や信頼を持っている人だろうか……などを頭に浮かべながら傾聴して、見立てを絞っていきます。

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IV. カウンセリング・ケースワークでの傾聴の時間配分

傾聴をする時間は、カウンセリングでは前半の70%くらい、相談・ケースワーク業務であれば、50%くらいを目安にします。


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V. なぜクライアントは傾聴されて回復するのか

悩みは、「何を悩んでいるか」を自分で自覚的に明確化できたら、それだけで8割くらいはもう解決です。悩みの自覚化→悩みの明確化→悩みの解決です。傾聴してもらうことで、このプロセスが自動的に進みます。このページの最初の図に示したようなカウンセリングの3つの段階は傾聴によって促進されます。そして、悩みを解決して、以前よりも「軽やかな」人生を作れるのです。

受講者の質問

同じ黙って聴いていても何が違う?

先日、うちのカウンセリング室に来て下さったクライアント、私は傾聴、傾聴と思って、じっくり聴きました。終わった後、クライアントさんから「たくさん話せてよかった、聞いてもらってすっきりした」と感想を言っていただきました。その時、以前に通っていたカウンセラーのことを話し始めて「だた黙って聴いているだけで何も言ってくれなかった」「分かってくれなかった」「嫌な感じがして、3回でやめた」と言っていました。私も黙って聴いていたのですが、一方では「聴いてもらってすっきりした」と言ってもらえ、一方では「何も言ってくれなかった」と不満が残る、何が違うのでしょうか?

高橋先生のフォロー

傾聴の本質は、「賛成して聴く」ことです

同じく「ただ黙って聴いて」いるようですが、違いがありますね。おそらく、前のカウンセラーはクライアントに十分に寄り添っていなかったのでしょう。寄り添うというのは、クライアントの話の内容を「賛成して聴く」ということです。もし、カウンセラーが心の中で「そんなことを言っていてもダメだよ」など思って聴いていたら、クライアントは聴いてもらった気持ちにはなれません。「分かってもらえなかった」となってしまします。
同じく黙って聴いていても、カウンセラーがその話に賛成しているのか、あるいは疑問に思って(賛成できずに)聴いているのかは、おのずとクライアントに伝わってしまうものなのです。
「賛成して聴く」のが傾聴です。考えれば考えるほど、難易度の高い技法ですね。 (高橋和巳)

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