見立ての作り方 <見立て8型メソッド>


ここでは<見立て8型メソッド>の概要を勉強します。
「見立て」とはクライアントの悩み・不適応の本質を分類することです。

見立てとは、「クライアントは人前で緊張がとても強くて相手を疲れさせる」などという日常的な言葉で語られる評価ではありません。また「幼少時から愛着関係が不安定で母親との葛藤で悩んでいる人」といったような精神分析や心理学の用語を用いた人格や性格傾向の解説でもありません。さらに、精神科での診断名でもありません。見立てとは、その人の悩みや不適応の原因に関する本質的な説明です(HCM カウンセリングセミナー基本コーステキスト第3版 p10から引用)

HCM カウンセリングセミナーでは見立てを8つに分類します。下記の順番で説明を進めていきます。

I. 傾聴と見立てを作る作業

カウンセリングの最も大切な実践は、
・1.傾聴の技法を実践すること
・2.見立てを作ること
の2つです。この2つは相互に補完し合いながらカウンセリング・ケースワークなどの相談を進めていきます。
傾聴ができると    →  正確な見立てが作れる、
→ 見立てができると →  傾聴が深くなり、クライアントが本音を語れる、
→ 本音を語れると  →  カウンセリングが進んでいく、
という関係です。
ここでは、見立ての作り方を順を追って学んでいきます。(まだ「カウンセリングの進め方 <傾聴の技法>」を読んでいない人は、そこで「傾聴の技法」も合わせて学んで下さい)

図に示したように、傾聴で最初の見立てができ、それによって傾聴のレベルが深まり、見立ても深まっていきます。言い換えると、クライアントがどこまで深いレベルで心を語れるようになるかは、カウンセラーの見立ての深さに呼応します。

見立てのレベルを上げていく実際の方法は、「治療技法セミナー」で行っています。参加者から提供された事例について、事実関係を確かめながら、順を追って見立てを組み立てていく方法が学べます。

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II. <見立て8型メソッド>の考え方-ABC軸で分類する

当セミナーでは見立てを8型に分類します。
8型は、カウンセリングや相談の現場での「人の理解」にもっとも基本となる3つの軸(ABC軸)によって分類されていますが、さらに2つの要件(①現場での必要度の高いもの、②悩み、不適応の理解により本質的なもの)を加えて、選択した結果です。

こららの<見立て8型メソッド>を使うと、これまでに私たちが検証した結果では、下記に示す現場で、98%以上の割合でクライアントの「見立て」ができます。
・カウンセリングの現場
・医療機関でのケースワークの現場
・保健所、福祉事務所などの行政の支援の現場
・子ども家庭支援センター、児童相談所、養護施設などの児童虐待の現場
・小中学校、高校などの教育の現場

下記に示すフローチャートによって見立てを作って行きますが、チャートを見ていただく前に、簡単に分類のための3つの軸、ABC軸を説明します。
実際のチャートでは、B→A→Cの順で適用します。

B軸:Brain dysfunction
脳機能障害があるか否かを判定します。
脳機能障害があると、心は通常の心理とは異なる動きをします。これを見逃していると、カウンセリングやケースワークは上手く進みません。
生まれつきの脳機能障害 :発達障害
後から発症する脳機能障害:統合失調症などの重い精神病、認知症
脳機能障害(+)の場合、見立て8型の分類=診断名となり、両者が一致します。

A軸:Attachment 
幼少時に母子間(養育者-子間)に安定した愛着があったかどうかを判定します。
幼少時に虐待を受けていると、愛着関係ができず、自我が不安定になります。子どものころは「反応性愛着障害」や「脱抑制型対人交流障害」の症状になって表れます。大人になると表面的には常識的な対人関係を保てるようになりますが、心の中ではこの傾向は続き、自己主張を我慢しがちで、自分を表現できずに苦しみます。

C軸:life Cycle
ライフサイクルの中での年齢相応の心理発達段階を達成しているかを見立てます。
通常は幼児期→学童期→思春期→成人期へと進みます。
例えば、思春期の見立てを見逃して、本人だけのケースワーク・カウンセリングをしていても問題は解決しません。思春期問題の場合は親との関係を評価しないとなりません。

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III. 見立てによってカウンセリング方針を選択する

見立てによって、カウンセリングやケースワークの方針が異なってきます。
その概要を下記に示します。
まず8類型をまとめると、以下の通りです。
①学童期 ②思春期 ③成人期 ④被虐待者「異邦人」
⑤「軽度」知的能力障害 ⑥自閉症スペクトラム障害 ⑦統合失調症
⑧認知症・高次脳機能障害

この8類型に基づいてて方針を立てて行きます。
そのポイントを1〜3に示します。

方針の立て方 ポイント 1
①②③④は脳機能障害なし:この場合、ケースワークよりもカウンセリングを優先します。つまり、クライアントの自主性・自己決定を最大限に尊重します。
・カウンセリング(心理療法) ケースワーク(環境調整)
⑤⑥⑦⑧は脳機能障害あり:ケースワークをより重視する。つまり、支援者・援助者の積極的な働きかけが大切です。
・カウンセリング(心理療法) ケースワーク(環境調整)

方針の立て方 ポイント 2
①学童期、②思春期は、本人だけのカウンセリング(心理療法)だけでは不十分で、親の見立てや親のカウンセリングが必要になります。本人だけをカウンセリングしていても問題は解決しないと「見立てる」ことが大切です。例えば、小学生や中学生の不登校問題、本人だけに働きかけていてもあまり進みません。
③成人期、④被虐待者「異邦人」は、本人だけのカウンセリングだけで完結し、問題解決します。

方針の立て方 ポイント 3
⑤⑥⑦⑧は脳機能障害あり:葛藤を取り扱う本格的なカウンセリングは「不可」です。特に⑦統合失調症の急性期では禁忌です(幻覚・妄想の悪化につながり危険)。
これらの場合、本格的なカウンセリングではなく支持的精神療法を中心に行うことが大切です。
③成人期、④被虐待者「異邦人」は、「傾聴の技法」を用いるだけで、クライアント自身の力で心の深いレベルのカウンセリングへと進んでいきます。あえて付け加えれば、ケースワークはなるべくしないようにすべきです。

以上、見立ての作り方を解説しました。いかがだったでしょうか。
セミナーでは具体的な事例・症例を取り上げながら、よりリアルに、より具体的に学べるようになっています。

人を見立てるうえでの基本の部分の丁寧な説明があった(事例とあわせて具体的な提示があった)。その人の見立ての枠組みのなかで、発達心理学を含めて、今までの理論や定説を説明しながら、考え方の説明、提示があった。事例の1つ1つのその人の言動、ポイントとなることの1つ1つや、人が生きていくうえでの影響など関連づけて話があり、わかりやすかった。<50代・専門職>
正しい見立てを理解することにより、日々のケースワークの迷いが減りました。講義と事例を繰り返すことで、具体的に学ぶことができました。ありがとうございました。<40代・保健師>
事例をもとにひもといていく過程が、とても勉強になりました。<50代・産業カウンセラー>

 

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